近年、県内の市町村では、博物館(資料館)設立の動きが盛んになっている。構想中のものも含めると相当な数になる。しかし、地域社会の文化活動の中核となるべき重要な施設でありながら、安易に計画が進められている所もある。理念や展示構想など十分な議論がなされずに設計図がひかれ、したがって建物の完成後も開館できない「資料館」さえあるのだ。
このように、手放しでは喜べない「博物館ブーム」であるが、1995年の開館を予定している今帰仁村歴史資料館のように、地域に根差した資料館を目指して着々と準備を進めているところもある。資料館準備室では、展示構想を具体化するために企画展を開催したり、調査研究の成果をまとめた『なきじん研究』を発行するなどユニークかつ堅実な活動をおこなっているが、中でも注目されるのが機関誌『すくみち』の発行である。
本書は、この『すくみち』の創刊号より第16号までを収録したものである。あらためて写真が鮮明になった『すくみち』をめくると、今更ながらその内容の豊富さに驚く。署名入りの記事だけで96あり、「今帰仁と沖永良部島」との歴史的関係を探る小論から「今泊の簡易水道の移り変わり」、急激な変化をたどっている祭祀に時間的な概念を明確に組み込んでいくとの目的でおこなわれた「古宇利の海神祭」の調査報告から、日常の中でオバーたちから聞いた「タオルの方言での呼び方」の調査報告までと、歴史や文化・自然・生業・地名・方言・芸能などさまざまなテーマにあふれている。
この『すくみち』を毎月のように手にする今帰仁村民は、歴史資料館の建設や資料館活動が着実に進められていることが実感としてわかるであろう。「地域で調査したものは、地域に返していく」という当たり前でありながら、なかなかできないことを、当たり前にやってしまう資料館準備室には学ぶ点が多い。
1992年5月25日・琉球新報・夕刊
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