書評:『ロックとコザ』 沖縄市役所 1994年

 現在、各地域において着実な地域史編集が行なわれている。地域史づくりは、単に歴史ロマンを求める懐古趣味ではない。地域には、歴史的風土によって培われたそれぞれの特質があり、この地域固有の歴史・文化を継承し、それを基盤として新しい文化を創造していくという目的があるものと考える。
 沖縄市の地域特性といえば、やはり「基地の街」をキーワードとする「戦後の時代」である。 これまでは否定的にみられることが多かったが、独特の強い個性を生み出し、今日の沖縄市を特徴づけたものとして積極的に評価していこうとしている。
 本書は、その沖縄市の戦後を、ロックミュージシャンの個人史を通して見ようという意欲的な試みである。 コザを拠点に「オキナワンロック」の全盛期を築いたジョージ紫、宮永英一、川満勝弘、喜屋武幸雄の4人の証言とロックバンドの変遷図、索引によって構成されている。
 証言は、生い立ちや音楽活動の変遷などが、方言や英語も交じえた言葉でつづられて臨場感がある。その中で、ベトナム戦争当時のコザの街の様子やコザ事件への関与、さらに麻薬・売春・暴力団など社会の暗部についても赤裸々に語られ、読者を引きつける。米軍による植民地的支配の中で、死に脅えるアメリカの若者、その米兵からあの手この手でドルを引き出そうとする沖縄人。血のかよった歴史がかいまみえる。
 ただ、語りをそのまま文章化しているために、証言には矛盾点や説明不足で理解しにくい点などもある。読み物としては、そこが生々しく迫力があるのだが、後世に残していく「史料」として考えると、聞き取り法や編集法に工夫が必要かもしれない。
 今後「民謡」や「Aサイン」をテーマに資料集が続刊されるとのことである。多様化した戦後社会を記録していくには、様々な視点から「人」に光をあてていく取り組みが必要であり、期待したい。

                     1994年9月12日・琉球新報・夕刊


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